元気な髪の元気たる本当の理由!
目次
- 毛髪の毛周期
- 毛を太くするために(VEGFの活性化,女性ホルモン)
- まとめ
1.毛髪の毛周期
身体の全ての毛穴は胎児の際に形成され、一生の毛穴の数が決まり、生後、新たに発生することはありません。一方で、体毛には毛周期というものがあり、休止期→成長期→退行期→休止期を繰り返して、一生のうちに何度も生え変わりが行われます。線維芽細胞系の毛乳頭細胞と表皮細胞系の毛母細胞及びメラノサイト、つまり、皮膚細胞系の細胞群が毛周期にかかわっています。
1)休止期→成長期
休止期には毛包の下部に毛乳頭系細胞の毛包間充織幹細胞が集まっています。成長期に向かうにつれて、毛包ではバルジ領域から毛包幹細胞が細胞分裂をして下方に移動し、毛母細胞もしくは内毛根鞘細胞に分化します。毛母細胞や外毛根鞘でBcl2(後述「※語彙○Bcl2とBax」参照)という物質を働かせながら、毛包は毛包間充織幹細胞に導かれるように下方へと伸びて、毛乳頭を覆うようにして皮下脂肪にまで到達します。(図1参照)
休止期では疎であった毛包の周りの毛細血管も、成長期には密に発達し(図2-a参照)、太い毛では毛乳頭内部にまで入り込んできます。(図2-b参照)この毛細血管は髪を作るための栄養を毛母細胞に供給するので、いかに密にはりめぐらせることができるかが、毛を太くする上で重要なポイントとなります。
毛乳頭細胞には細胞外基質「バーシカン」(コンドロイチン硫酸系のプロテオグリカンの一種)が生産され、毛母細胞の分化や増殖を支えるための毛乳頭環境を整えます。毛母細胞は毛根部で次々と増殖し、上に押し上げられていくうちに角化(細胞としては死んでいるが硬くなって皮膚を守る存在となる)して、髪の毛となります。
2)成長期→退行期→休止期
退行期に入るときには、毛母細胞や内・外毛根鞘ではBcl2の働きが弱まり、Bax(後述「※語彙○Bcl2とBax」参照)というアポトーシス(細胞の自殺)誘導因子が活性化されます。すると毛包幹細胞の細胞分裂が阻害され、毛母細胞と内・外毛根鞘細胞が徐々に喪失し毛包が衰退します。毛乳頭系細胞は、毛の根元が離れてむき出しになり、毛包の下にある毛芽にくっついた形で上昇してバルジ領域との距離を縮めます。一方で、毛乳頭系細胞や毛包幹細胞ではBcl2の働きは持続しているため退行期・休止期の間も活性し続けています。
※語彙
○Bcl2とBax
Bcl2とBaxはともにアポトーシス(細胞壊死)(後述「○アポトーシス」参照)を調節する因子です。Baxはアポトーシスを促進する遺伝子で、Bcl2はBaxの働きを阻害してアポトーシスを阻止する遺伝子です。
○アポトーシス
アポトーシスは細胞壊死を意味しますので人体にとって悪影響を与えると捉えられがちですが、必要がなくなったり存在すると悪影響を与えたりするような細胞を炎症等の症状を引き起こすことなく消滅させる正常な機能です。アポトーシスにより死んだ細胞はマクロファージという細胞(後述「○マクロファージ」参照)により完全に分解されて栄養分などとして利用されたり、体外へ排出されたりします。アポトーシスが正常に働かなくなると癌を引き起こす原因となります。
○マクロファージ
マクロファージは、白血球の一種で、死んだ細胞や侵入した細菌等の体内の異物やゴミとなるものを捕食して分解する体の掃除屋さんです。貪食細胞という異名を持つほどで周辺のものを何でも自分の中に取り込んでしまいますが、実は分解するべきものとそうでないものをちゃんと分別できる実に頼もしい細胞です。
2.毛を太くするために
a)VEGFの活性化
1)毛乳頭と毛の太さ
成長期において、毛乳頭の体積が大きくや毛乳頭細胞の数が多いほど毛球のサイズが大きく、これらは毛の太さと相関があります。毛乳頭が元気なほど髪が太くなると考えられます。
2)毛包を支配する毛乳頭
人は、髪の毛を含め全身で500万本(うち頭髪は10万~12万本)あります。これらの数は胎児で体ができるときに決まってしまい、生後以降は変化しません。すなわち人が生まれた後、毛のないところには毛包はできません。しかし、通常毛の生えない足の裏に毛乳頭を移植するとそこに新たな毛包が形成されます。さらには、毛母細胞への分化の指令をだしたり、毛芽細胞を作ったりもします。すなわち、毛乳頭が毛穴の形成を掌(つかさど)っているのです。
3)前周期の毛芽の数が勝負
毛乳頭は成長期が終わる前までに毛母細胞の種となる毛芽細胞をどれだけ多く作るかが、次の成長期の毛球をいかに大きいサイズにできるかに影響します。毛乳頭細胞の力が弱まってくると、前周期より少ない毛芽しか作れず前周期よりも細い毛になってしまいます。これが繰り返されることにより毛が徐々に細くなってきます。男性は成人、女性は40代あたりからこのような傾向がみられます。
4)毛乳頭を元気にするにはVEGF
図2-aのように退行期には疎であった毛包の毛細血管も成長期には密になります。毛細血管は毛包に毛髪の基となる成分だけでなく、毛を成長させる因子(サイトカインやホルモン等)なども運んでいると考えられます。毛包や毛乳頭細胞の毛細血管が密であるほど毛を太くするための栄養や因子が必要な分だけしっかりと送り込まれますので、元気な髪が育つと考えられます。毛乳頭の毛細管が疎になると栄養や因子の量が少なくなり、成長期が終わるまでの間に次の準備が十分にできず前周期より毛が細るという負のスパイラルに陥って薄毛がすすむ可能性があります。この血管の疎密にかかわるのがVEGF(血管内皮増殖因子)です。遺伝子組み換えによってVEGFを過剰に発現するマウスの実験を行ったところ、毛包周辺の毛細血管が密になり毛が太くなったという実験結果も報告されており、VEGFの働きをよくすることが毛を太くさせることに有効であるといわれています。
b)女性ホルモン
5)毛髪の成長期を長くするには女性ホルモン
図のとおり毛髪はBcl2の発現により成長期に入り成長期が終わるとともにBcl2の発現がなくなります。一般に男性の成長期の期間は3~5年、女性で4~6年とされており、男女で異なります。したがって、女性のほうがBcl2の発現期間が長いことになり、女性ホルモンが関与していると思われます。成長期毛の割合は頭皮の毛髪の多さの指標となっているように、成長期を長くすると頭髪全体の休止期毛に対する成長期毛の割合が多くなり、より豊富に毛髪があるように見えます。
3.まとめ
毛幹の太さは特に毛細血管の密度が深く関係することがわかります。ある年齢から毛周期ごとに気づきにくい程度で毛細血管の密度が低くなってきます。放置したままでは低密度傾向の改善は考えにくいですので、女性は40歳あたりから生涯の美容のためにも育毛剤などでケアを考える必要があると思います。育毛剤などを選ぶ際には、非常に長い間使うものですから長期連用に適する特に血管を成長させる効果が期待できるものがいいのではないでしょうか。
山川雅之
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